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即興演奏-演奏形態そのものの生産
(ロデリウス・ニュークラック著
「即興演奏のイデオロギー」(1964)より、金野吉晃訳)

 

<この文章いや、この著者に関する訳出はおそらく本邦初ではないかと思われる。彼についての詳しい経歴は不明だが、その概念形成の在り方からみて、いかにもマルクス主義的背景がある。時代からしても対抗文化としてのジャズが成熟し、ロックはいよいよ変貌を遂げようとする時期であり、彼の周囲でも盛んに前衛音楽の果たす役割が論議されたことだろう。彼は一時期、即興演奏を実践していたようであるが、それが一度でも録音されたかどうかは分からない。彼が形成していたのは今で言えば「非イディオマティック」な演奏集団だったことはほぼ確実で、60年代の幾多の試みと大差あるものではないだろう。この文章で、論じられているのは、即興演奏の基盤となる考え方と、それが個人の歴史的条件と演奏者の結び付きによる一種のコミューン的集団であり、結果的には非専門化していくべきという主張に結ばれている。私はこうした考えに全面的に賛意を表明するものではないが、今、我々の音楽史が種々のテクノロジーによる、かつてない変貌を遂げようとするにあたり、集団性、共同性の観点から即興演奏の持つ意義を考える契機になればと思い、訳出してみた次第である。なお、著者の名前が変名である可能性は高い。訳者>

 

 即興演奏がいままでのすべての音楽と違うのはつぎの点である。すなわちそれは、いままでの音楽ならびに演奏の基礎を変革し、すべての自然成長とみなされていた前提を人間の創造物としてとりあつかい、それらの前提の自然成長性をはぎとって、結合した個人たちの力にそれらを服従させるのである。したがって即興演奏の建設は本質的に統合的であって、この結合の諸条件を現実的につくりだすことである。それは既存の諸条件を結合の諸条件とする即興演奏がつくりだす音楽こそ、個人から独立したすべての音楽を、不可能にしてしまうための現実的な土台なのである。だから即興演奏者たちは実践的に、いままでの演奏および音楽によってうみだされた諸条件を、非有機的なものとしてとりあつかう。しかしながらかれらは、かれらに素材を提供することがいままでの諸世代の計画または使命だったとは想像しないし、またこれらの諸条件がこれらをつくりだした個人たちにとって非有機的だったとも信じない。

 …矛盾がまだおこっていないあいだ諸個人がたがいに演奏しあうばあいの諸条件は、かれらの個性にぞくする諸条件であり、かれらにとってなんら外的なものはない。そしてそれらは、一定の諸関係のもとに生存するこれら一定の諸個人が、かれらの物質的生活およびこれにつながるものを表現しうるための諸条件である。それらはかれらの自己表現の諸条件であり、この自己表現によって演奏されるのである。だからかれらが演奏するばあいの一定の条件は、矛盾がまだおこってこないあいだは、かれらの現実的な被制約性、かれらの一面的な存在に対応する。そしてこの存在の一面性は矛盾の到来によってはじめてしめされ、したがって後代の人々にとって存在するようになる。そのときこの条件は一つの偶然的な桎梏としてあらわれ、さらにそれが桎梏であるという意識が前代にもあてがわれることになる。

 これら種々の条件は、はじめは自己表現の条件としてあらわれ、あとではそれの桎梏としてあらわれたが、歴史的変化全体のうちではひとつながりの系列の音楽諸形態をかたちづくる。これら諸形態のつながりは、桎梏となった前代の音楽諸形態のかわりに、一層変化した演奏力に対応する一つのあたらしい音楽形態があらわれ、今度はこれがまた桎梏となって、さらに他の音楽形態にとってかわられるというところにある。これら諸条件はそれぞれの段階において演奏力の同時的な変化に対応するから、これら諸条件の歴史は同時にまた、変化をしながらそれぞれのあたらしい世代によってうけつがれてゆく演奏力の歴史、個人みずからの諸力の発展の歴史でもある。

 ある社会においては、たとえ各人がすぐれた演奏家であるとしても、このことはまだ、各人が独創的な演奏家でもあるということを排除することには決してならないだろう。したがって、…「公益的」音楽と「唯一的」音楽との区別は無意味なことになってしまう。いずれにしても集団即興的な演奏組織のばあいには、純粋に分業からうまれる範疇的および地域的なせまくるしさのもとに芸術家が抱摂されることや、特定の芸術のもとに個人が抱摂されてしまうこと、したがってかれが専門的音楽家であること、またすでにその名称もかれの職業的発達のせまくるしさと分業への依存を十分にあらわすということもなくなってしまう。即興演奏には音楽家などはいず、たかだかこのんで演奏する人々がいるにすぎない。

(Excerpts from "Ideal ideology of improvisation" written by Rodelius Newcrac, 1964)